株式投資をしている方は、企業の決算書を見て投資先の選定をしている人がほとんどと思います。
決算書には企業のこれまでの業績や将来の方向性等、投資先の選定に必要な情報が多く記載されており、役に立ちますよね。
キャッシュフローでお金の流れを掴むことが大事なんだよ。
自己資本比率を見ると会社の安定性がわかって良いですね。
様々参考になる指標が掲載されている決算書ですが、その中で私は【EBITDA】という指標は読み飛ばしていました。
正直なんのことかよくわからないし、読み方もわからないし、
ということで無視して読んでいたのですが、ひょんなことから調べてみると、意外にも参考になる指標だ!と気付いたので、備忘録を兼ねてその調べた結果を記事にします。
EBITDAは企業がその会計年度で稼いだ実際のキャッシュ
EBITDA(イービットディエー)は企業が、その年に"実際に"稼いだキャッシュのことです。一般的には現金を稼ぐ力がどれだけあるかを見る指標と言われています。
企業が稼いだお金という観点では、【営業利益】という指標もありますが、営業利益では実際に稼いだ現金を知ることができません。
なぜなら営業利益には、実際には現金の動きが発生していない減価償却費が含まれているからです。
どういうことかというと、減価償却費はご承知の通り、実際には物品を購入した年にしかお金を支払っていない(現金の動きは1年目だけ)にも関わらず、あたかも分割して毎年支払いをしているかのごとく決算書に登場する費用です。
国税庁では減価償却を以下のような考え方で費用計上するものとしています。
減価償却資産の取得に要した金額は、取得した時に全額必要経費になるのではなく、その資産の使用可能期間の全期間にわたり分割して必要経費としていくべきものです。
国税庁HP より
減価償却費はこの考え方に基づいて、償却が終わる(耐用年数が経過する)まで毎年費用計上されます。
そのため、実際の現金の動きとしては1年目のみ支払い発生、以降は見かけ上の費用ということになります。
ということは、減価償却費を「費用」として考える、営業利益では、実際にその年に稼いだお金が減価償却費で削られる分だけ安く見積もられ、正確な情報として捉えることができないということになります。
そこで参考になる指標が、EBITDAです。
営業利益+減価償却費で本来稼いだお金(EBITDA)になる
営業利益は、以下の計算式で算出されますが、
【営業利益】
= ①売上 − ②売上原価 − ③販売費・一般管理費
上の式のうち、「②売上原価」と「③販売費・一般管理費」の両方に減価償却費が含まれています。
それらを切り取って営業利益に加算したものがEBITDAになります。
【EBITDA】
= ①売上 − ②売上原価 − ③販売費・一般管理費 + ④減価償却費(③売上原価と④販管費に含まれるもの)
= 営業利益 + ④減価償却費
計算方法は簡単ですね。
例えば、以下のパターンを考えると、
①売上:10億円
②売上原価:7億円
③販売費・一般管理費:2億円
④減価償却費:6億円
この場合、営業利益は1億円(①−②−③)となります。
一方、EBITDAは7億円(営業利益+④)となり、その年に稼いだ現金として7億円が算出されます。
このように営業利益では1億円程度だったにも関わらず、EBITDAを見ることで、その企業が7億円も稼いでいたという事実が判明するわけです。
EBITDAはM&A で用いられる
EBITDAは、上述の特性から企業の稼ぐ力がわかるため、M&Aによく用いられます。
正確には、EV/EBITDAが用いられ、EV(企業価値)をEBITDAで割り、何年で買収に要した金額を回収できるかを算出して、買収額を決めます。
先程の事例で説明します。
①売上:10億円
②売上原価:7億円
③販売費・一般管理費:2億円
④減価償却費:6億円
⑤営業利益:1億円
⑥EBITDA:7億円
この会社の企業価値(EV)が50億円だと仮定すると、EV/EBITDAは
50÷7=約7.14倍
となり、7年強で50億の投資を回収できるという考え方になります。
このとき、営業利益だけを見れば、投資の回収までに50年(50÷⑤)かかるという判断になりますので、全く異なった結果になることがわかります。
ちなみに企業買収では、EV/EBITDAが8〜10倍であることが、買収妥当金額という判断になるようで、上述の事例はEBITDAのみで判断するならば、「買」という判断になりそうです。
EBITDAはあくまでも参考指標
上述の通り、実際に稼いだキャッシュを知るためには、EBITDAは便利な指標ですが、「減価償却費(や税金、支払利息)が全く考慮されない」という点には注意が必要です。
たとえば、自動車産業では工場での生産設備が欠かせませんが、EBITDAではこの生産設備の減価償却費は考慮されません。
また、支払いの際に借入を行い、利息を支払っている場合、これも考慮されません。
利益を得るために生産設備を使っているにも関わらず、それが費用としては考えられていないのです。
また、見かけ上の費用とはいえ、設備なので一定期間経過(耐用年数経過)するとリニューアルする必要があり、そのタイミングでまた支払いが発生するため、全く考慮されないのは確かになんとも解せないところがあります。
かの有名なウォーレン・バフェット氏もこの点を指摘しており、ナンセンスだと斬り捨てています。
このような点からEBITDAはあくまでも一つの参考指標とするのが、良いかもしれません。
まとめ
EBITDAは企業買収の際に用いられる決算指標です。
計算式が、
【EBITDA】
= 営業利益 + 減価償却費
で表される通り、減価償却費を費用として計上しない点に特徴があります。
そのような特徴から、減価償却費を差し引くEBITDAは、「現金を稼ぐ力を表す」とも言われています。
ウォーレン・バフェット氏が指摘する通り、企業活動に不可欠な設備に関する費用を考慮しないEBITDAは、妥当ではないという見方もありますが、実際にM&Aにも用いられる指標であることからも、参考指標として認識しておくと良いかもしれません。